音楽が子どもと家庭を育てる。

音楽が子どもと家庭を育てる。

マツイシ楽器店代表取締役社長
松石奉之

常に人気習いごとランキング上位に位置する音楽教室。

なぜ音楽教室はこれほど人気なのでしょうか?

音楽を習うことでどのような能力が身につくのでしょうか?

今回はそんな音楽教室の魅力や人気の理由について、知多半島を中心に楽器販売店5店舗、ヤマハ音楽教室を14教場運営する株式会社マツイシ楽器店の代表取締役である松石奉之様にお話を伺います。

それでは、よろしくお願いいたします。まず最初に、音楽教室で身に付く能力についてお伺いします。「音感」や「リズム感」などがまず思い浮かびますが、「音感」や「リズム感」も含め、音楽を学ぶことで身に付く能力について教えていただけますか?

 はい、まず音楽を習い始める年齢や(身体的な)発育状況で得られる能力に違いがあります。年齢や発育段階に合わせた教育のことを適期教育と言いますが、私達の教室では、この適期教育を大切にしています。

 例えば、急速な聴覚の成長が期待できる4〜5歳では、音楽を聴かせたり、歌を歌わせたりすることで絶対音感やリズム感を身につけることができます。

 その後、小学生くらいになって指の筋力が発達し、鍵盤楽器を弾けるようになると、鍵盤を叩くための適切な力加減を通じて触覚が鍛えられます。そして楽器を演奏するとき、左右の手や足が違う動きをします。目から、耳から、手足から刺激を受けることで脳内で様々な情報が飛び交い、脳の活性化に繋がります。

 何度も反復練習をしますので忍耐力と集中力も養うこともできます。さらに、楽譜も覚えるようになると記憶力の向上も期待できます。

 また、演奏は単に楽譜に沿って音を奏でるだけでなく、その楽譜に隠された作曲者の心情や、時代背景、文化などを考察します。そうするとその曲に使われている音楽記号に隠された意味だったり、楽譜には直接描かれていないことを読み取る力が身につきます。

 創作・作曲やアレンジをに取り組んでもらう段階になると独創性や想像力を身につけることもできます。

年齢や発育状況で身に付く能力についてよくわかりました。音感やリズム感が学習面や生活面で良い影響を与えることはありますか?

 はい、もちろんです。音感、特に聴覚を鍛えることは言語学習においてとても有用だと言われています。これは聞こえた音を正しく理解し、正しく発音することができるようになるためで、これにより多くの日本人にとって苦手とされている英語のリスニングやスピーキングにも効果を発揮します。

 また、リズム感は音楽だけでなく、言語学習・運動神経の向上にも良いと言われています。野球などを初めとする球技では特に効果を発揮します。

 それから、グループレッスンや音楽の醍醐味であるアンサンブル(音楽用語で2人以上で演奏すること)では、他の人と協働するので音感やリズム感だけでなく、社会性や協調性も身につけることができます。

 特にアンサンブルにおいては、常に相手がいますので、相手の音を聴くことや、相手の楽器やパートを理解することが求められます。その中で、自分の役割だったり、相手への理解や思いやりだったりと、子どもの成長に必要な能力を自然に身につけていくことができます。

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ありがとうございます。習い事ランキングで常に上位になっていることも納得できました。ちなみに、音楽を習わせている親御さんはどのようなことを期待して音楽教室に通わせているのでしょうか?

 まず、プロのピアニストにしたいとか、ピアノの先生にしたいといって通わせている親御さんはほとんどいません。皆さんの多くは情緒豊で感受性のある子どもになってもらいたい、音楽を楽しんでもらいたいという想いで通わせています。そのため学習塾とは違った側面の成長に期待する親御さんが多いという印象です。

 また、これは音楽教室の特徴でもあると思うのですが、親御さん自身が子どもの頃に音楽教室に通っていて、その経験から子どもにも通わせるという方がとても多いです。

通われてから親御さんの期待と実際とのギャップが生まれることはありますか?

 感受性の醸成という点ではギャップはほとんど生まれないと思いますが、学習面や生活面での効果はもともと期待していない方が多いので、良い意味でのギャップになっていると思います。

 ただ、我が子を周りの子と比べはじめてしまうと、良くないギャップが生まれることもあります。

 私だけでなく、音楽を教えている人間は、音楽を楽しんで学んでもらいたいという想いがあります。もちろん親御さんも入会当初は同じ想いを持っています。

 しかし、レッスンが進むにつれて、周りの子と比較し、成果を重要視するようになってしまう場合もあります。すると、自宅で練習するときにも、できていないことばかりを責めてしまうようになり、結果として、子どもも音楽を楽しめなくなり、練習へのモチベーションにも影響を与えて上達が遅れる原因にもなってしまいます。

 もしそうなってしまった場合は、「音楽を楽しむ」という当初の目的を思い出していただければと思います。それが、かえって上達への近道になります。できていないところは音楽教室で指導をしますので、ご自宅ではとにかくできているところを褒めるようにしていただければと思います。

ありがとうございます。他に注意点などはありますか。

 あとは、他の習い事で忙しくなってくると、音楽教室を辞めてしまうケースもありますが、これは非常に勿体無いなと感じます。レッスンを減らしたり、一時的に離れたりしても良いので、また戻ってきていただくのが良いと思います。細々とでも良いので音楽を続けた生徒の方が、かえって音楽面でも学力面でも優秀になっていく傾向が強いように思います。

 ですので、音楽か勉強かという二者択一ではなく、両立するという選択肢も残しておいていただきたいと思います。例えば、このヤマハ音楽教室にも、学業・音楽面で非常に素晴らしい成果を残した生徒がいました。彼は小さい頃からピアノを習い始め、ピアノを習いながら東海中学校への中学受験も無事成功させました。その後もやめることなくピアノを習い続けて名古屋大学の医学部に合格しました。今は大学5年生(2022年2月現在)になっており、医学を学びながら多くのピアノリサイタルにも出演しています。そして、最近では世界的なコンクール(ショパンコンクール)においてもベスト45という好成績を残しました。

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名大医学部合格ですか!素晴らしいですね!「音楽は楽しみながら学ぶこと」と「とにかく続けること」が大切なのですね。とはいえ生徒たちも自分の演奏の習熟度などは気になると思うのですが、そういうものを確認する方法はあるのですか?

 ヤマハ音楽教室にはグレードというものがあり、これが英検などの級に相当します。ただそれ以上に、弾けなかった曲が弾けるようになったり、音階が聴きとれるようになったり、読譜ができるようになることが一番練習の成果を感じられる部分だと思います。

 また、コンクールや発表会などでも日々の練習の成果を披露することができます。コンクールでは大勢の人の演奏が聞けますので、それだけでも行く価値があります。人の音を聴きながら、自分ならどのように演奏するだろうか?この奏者と自分とではどこが違うのだろうか?と考えることもコンクールの楽しみ方の一つです。

 ただし、このコンクールというものについて一つだけ注意点があります。それは結果にこだわり過ぎないことです。世の中には、沢山のコンクールがあり、そのレベルも本当に様々です。そのため自分のレベルにあっていないコンクールで良くも悪くも思いがけない結果になることがあります。

 もちろん、コンクールというものは自分の練習の成果を発揮する場ではありますが、それ以上に、コンクールまでの過程で得られるものを大切にしていただきたいと思います。

少し話は変わりますが、音楽教室に通い始めるのにおすすめの年齢はありますか?

 先ほどお話したように音感を身につけるのであれば4〜5歳から習い始めるのが良いと言われています。

 ただ、4〜5歳でなければ身につかないということではないので、何歳から始めても問題ありません。早くから始めるに越したことはありませんが、小学生になってから始めても、中学生になってから始めても、大人になってから始めても必ず得るものはあります。

  また、最近は暇になるとついついインターネットや動画を見てしまうという子どもも多いと思いますが、音楽を習うことで、スマホの代わりに楽器に触れるようになります。また、勉強の合間の息抜きにもなり、ストレスの発散ができます。

 このように、音楽を習うということは、音楽的な技術はもちろんですが、それ以上に学習面や生活面に良い影響を与えます。

音楽教室は何歳から始めても効果があるということですので、子どもだけでなく趣味を探している大人の方なんかにも良さそうですね!ところで習う楽器で悩む親御さんもいらっしゃると思いますが、どの楽器から始めるのがおすすめですか?

 最初はピアノやエレクトーンなどの鍵盤楽器をおすすめします。初めて楽器を習う場合、まず正しい音階を学ぶ必要があります。鍵盤楽器は同じ鍵盤を叩けばいつも同じ音がでますが、ギターやバイオリンなどの弦楽器では、おさえる場所がずれることがあるので常に同じ音を出すことが困難です。

 そのため、最初はピアノやエレクトーンで正しい音階を身につけ、その後新しい楽器に挑戦することが一般的です。ピアノを習得しておくと他の楽器への移行もスムーズになります。

最後に、読者の皆様に向けたメッセージをいただけますか?

 習いごととしての音楽教室だけでなく、実は最近では親子アンサンブルというものも増えています。これは文字通り親子で音楽を楽しむということなのですが、日本でこれが増えているというのはとても嬉しいことです。

 ご自宅にピアノが置いてある方もいらっしゃるかと思いますが、そのピアノを日常的に演奏することはあまりなく、多くの場合は子どもの練習用にしか使われていないのではないでしょうか。

 海外では日常的に家族で音楽を楽しむことが多いそうです。それが新しいコミュニケーションを生み、家庭がパッと明るくなります。音楽を楽しむといっても、家族みんなが専門的な楽器を演奏する必要はありません。例えば、音楽が苦手なお父さんはシンバルやトライアングルを叩き、楽器が演奏できるお母さんや子どもはピアノやギターを演奏する。これだけでとても楽しい家族の時間を過ごすことができます。

 最近まで、日本は音楽に対してとても閉鎖的な国でしたが、近頃は街や駅にストリートピアノが置かれるなど、音楽に対してかなりオープンになってきました。このまま、音楽に溢れる国になれば、こんなに嬉しいことはないなと思っています。

 皆様もこれを機に音楽に興味を持っていただければ幸いです。

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音楽を習うことで身に付く能力に始まり、楽器の選び方、そして音楽の魅力など、非常に盛り沢山の内容で、どれもとても興味深いお話でした。今回のインタビューは以上です。音楽を習わせようかと考えている方や、他の習いごとに切り替えようか悩んでいる方への一助になることを確信しております。貴重なお話をありがとうございました。